
洋ラン中学
コチョウラン・カトレヤ・パフィオペディルム・バンダ・セロジネ−−
やや難しい種類の入門編
1.初めに
洋ランの入門書を見ると、色々な種類が並べられています。そこでつい、コチョウランやカトレヤを入手してしまいますが、シンビジウムやデンドロビウムとは違った難しさがあるようです。
洋ランが枯れる原因は色々あって困りますが、主に過湿による根腐れ、日焼けによる葉の脱落、長雨などをきっかけにしたカビ病、低温による凍傷や根腐れ、など、天候と世話に関係しています。また、弱っている苗ほどカイガラムシなどの害虫が繁殖しやすい傾向があります。コチョウランやカトレヤは、これらのどれにもシンビジウムやデンドロビウムに比べて弱く、しかも致命傷になり易いという傾向があります。
それでも、これらの種類の花を咲かせてみたいと思うのが人情です。
そこで、ここでは、入門として、それらの中でも丈夫な種類を選んで、育てる方法を考えます。
パフィオペディルムやバンダなどもとりあげます。セロジネは、これらよりも馴染みが薄いですが、問題となる性質が上のグループに似ているので一緒に考えます。
贈答用の豪華なコチョウランや、大輪のカトレヤは、難しいですが、これらの中にも、必ず割に丈夫な種類があります。
2.やや難しい種類のグループ
胡蝶蘭やカトレヤなどの華麗な花の種類は、丈夫な種類に比べると、やや難しくなっています。洋ランには、これらほど、見かけませんが、パフィオペディルムやバンダもありますが、同じく、やや世話の仕方を変える必要があります。やや根腐れしやすく、日焼けや、色々な病気で障害を受けることがあり、冬の寒さも上の種類よりは苦手で、花を毎年咲かせるには、注意が必要です。
| 根腐れ | 水やり | 開花 | 開花期 | 日射 | 冬温度下限 | 耐病性 | 害虫 |
カトレヤ | やや起きやすい | 普通 | シース枯れ | 全季 | 中 | 10℃ | | |
胡蝶蘭 | 起きやすい | 普通 | | | 中、日焼け | 15℃ | 黒斑病 | |
パフィオペディルム | 置きやすい | 非耐乾性 | | | 弱、日焼け | | 軟腐病 | |
セロジネ | | | | | | | | |
バンダ | | 非耐湿性 | | | | | | |
ミルトニア | | | | | | | | |
| | | | | | | | |
3.丈夫で育てやすい種類を選ぶ
これらのグループが枯れやすいのは、おおざっぱにいうと根腐れ、日焼け、病気、低温障害になりやすいからです。従って、これらのグループの中でも、以下のように相対的に根腐れし難く、病気にかかりにくく、強い日射や低温に抵抗力のある種類を選べば、枯らしたり、花が咲かなかったりということが少なくなります。根腐れは大きい鉢ほど起きやすいので、小型種の方が無難です。豪華な大きな花が咲くのは高温・多湿の熱帯産が多いですから、小型種・温帯産は一般に寒さにも強いです。コチョウランの中では、強健なドリティス属との属間交配種であるドリティノプシスは日焼けや病気になり難い傾向があります。西洋フウランは、温帯の我が国に産するフウランとの交配種なので、低温に強いです。パフィオペディルムは花ばかりでなく斑入り葉も鑑賞の対象ですが、日焼けに弱い傾向があるので、初めは緑葉系が勧められています。
セロジネは、強光に弱い以外は丈夫な方で、いわゆる低温種なら育てやすいです(園主が教える図解洋ランつくりコツのコツ)
| グループ | 丈夫な種類 |
| カトレア | ミニカトレア |
| コチョウラン | ミディコチョウラン(ドリティノプシス) |
| パフィオペディルム | 緑葉系 |
| バンダ | 西洋フウラン(アスコフィネティア) |
| セロジネ | 低温種* |
*セロジネ低温種:原種:クリスタータ、オクラセア、フラクシーダ、交配種インターメディアなど
4.育て方の基本
洋ランの育て方というと、易しい種類を含めて、グループごとに異なるやり方をしなければならないように言われています。しかしそれより、まず大事なのは、植物を育てる基本−植え方と水やりと、これらのグループに共通な問題への対策でしょう。上に書いた「丈夫な種類」は、そうでないものより、抵抗力があります。
(1)根腐れ予防・植え方・雨除け
これらの種類は、丈夫な種類よりは根腐れしやすい傾向があります。さらに、苗を入手した時点ですでにいくらか根腐れしていることさえあります。高温で、乾きやすかった温室から、低温で乾きにくい家庭に来たことを考えると、鉢の乾きを良くしないと、根腐れしやすくなります。
その予防策としての最初の処置が、入手した鉢の衣替えと鉢底近くの穴開けです。これによって、少なくとも初期不良が減ります。
根腐れは、梅雨と秋の長雨の雨ざらしや、低温期の過湿によっても起きます。これらの時期には屋外栽培では雨除けが望ましいです。
(2)日焼け予防・置き場所
丈夫な種類は、直射日光でも、大丈夫ですが、これらの種類は、短時間直射日光に当たっただけで、日焼けを起こし、少ない葉を落として、致命的なダメージを受け、再起不能になります。少なくとも庭で日の当たるところには、南向きばかりでなく、西や東向きでさえもむき出しで置くことはできません。家の北側でも日の高い季節には西日が短時間当たったりして日焼けが起きます。
従って、これらの種類には、日除けが不可欠です。しかし、色々な本に書かれているように種類ごとに細かく段階を分けて、季節ごとに頻繁に変えて、遮光するのは現実的ではありません。
おおまかに季節に従って、大部分の種類を一括して置き、それでも困る特別なものは別な場所に置くのが現実的でしょう。
日焼けというのは、実際には、多肉である葉が高温でやけどをすることです。従って、高温で日光の強い夏は、他の季節よりも日焼けしやすくなります。また、気候は同じでも、休眠開けや根が弱って吸水が不十分な苗など、葉に十分水分がないと、葉は高温になり日焼けしやすくなります。反対に、風通しが良いと、日焼けしにくくなります。
家の内外で、直射日光が当たらない所を探すと、以下のようになるでしょう。
@基本
(1−1)春の初めと秋の終わり:直射日光で可
まず、春の初めと秋の終わりの、温度が余り高くなくて、日射が余り強くない時期には、一部の種類を除いて、西日が当たらなければ、直射日光でも大丈夫です。
(1−2)春と秋:西日を避ける
午前中は気温が上がらないため、日光を浴びても、日焼けが起きにくいです。
(1−3)夏:日よけ
高温になる夏は、短時間でも直射日光が当たると日焼けを起こします。日の当たる場所では日除けが必要です。
A強い日光に弱い種類:年中日よけ/日陰、室内?
コチョウランは、日焼けしやすく、しかも日焼けから病気が発生したりして、葉を落として枯れることがあります。従って年中日除けが必要です。しかも雨にも弱く病気になり易いです。従って雨除けもするか、年中室内で育てる方が安全です。
パフィオペディルムは、森林の下草として生えている種類が多く、これらのグループの中で、最も強い日射に対して日焼けしやすいです。従って、屋外では他の植物や、他のランの下に置くのが一つの方法です。
一方、1年中、コチョウランやパフィオペディルムを室内で育てている人がいます。窓際のカーテン越しの所なら、日焼けの心配はありません。
置き場所の他の例
2階のベランダで、南側に高い壁がある場合にはその陰に置くのが一つの方法です。
日の高い季節には、軒下に吊るすのも一法です。
1年中、家の中で、日当たりの良い窓辺に、必ずカーテンを引いて置くのも一つの方法ですが、余り遮光しすぎると軟弱に育って花が咲かなくなります。
(3)病気予防・雨除け・殺菌・風通し
病気は、高温・多湿や、低温の時期に、カビや細菌(バクテリア)によって起きる物が大半で、コチョウランとカトレヤは特に病気のデパートと言っても良いくらい、他に種類に比べて病気が出やすいです。風通しと、日焼けしない程度でできるだけ日に当てることが予防につながります。また、梅雨や屋内に取り込むまでの長雨のときは、雨除けが必要です。さらに梅雨入り前と、家に取り込む前に殺菌剤で消毒して予防します。
(4)低温障害・防寒
これらの種類は、さらに、シンビやデンドロなど低温性と呼ばれる種類に比べて、高温性、または中温性と呼ばれ寒さに弱くなっています。コチョウラン・カトレヤ・バンダとパフィオの一部は熱帯産です。冬の最低温度として望ましいのは15℃とされていますが、10℃程度までは障害なしに育って花も付けるようです。それ以下になると、目に見える障害はなくても、翌年の生育が思わしくなく花が咲かず、期待外れとなります。すぐに腐ったり枯れたりしなくても、年々株が小さくなっていく感じです。
家庭で冬の間居間に置く場合は、夜も10℃以下に下がらないようにできれば、かなり効果があります。良く言われるのは、冬の昼の高温も大事だということです、春の生長開始の遅れが翌年の開花の大敵なので、そうなるほど休眠させないためには、冬の間昼夜の温度差が10℃程度あることも大事とされています。
5.根を見て育てる−透明鉢
以上のことは、全てどの本にも書いてある基本的なことです。これに、以下に書いてることを加えると、黒帯が近づくでしょう。
コチョウランでは、太い根が鉢から飛び出していることが良くあります。本には、根の先が緑色になっていれば元気な証拠と書いてあります。バンダは根をむき出しにして育てられますが、根が気難しく、同じく根の先が緑色になっていれば元気ということですが、大抵はそうでなくなっています。オンシジウムは複茎で新芽がどんどん高くなっていくので、新しい根が元気よく出ている時はそれらの先が全て緑色になっています。カトレヤも、新芽がミズゴケなどの上に持ち上がっていると、出たばかりの根の先が緑色なのを見ることができます。難しい種類も、易しい種類も、新しい根が出たり、根が伸びていて先が緑色ならば元気に生育しているということです。
しかし、このように新しい根が空中に出る種類や、根が出始める季節には元気なことが分かりますが、そうでない場合には、分かりません。
そこで、透明鉢が威力を発揮します。地生のパフィオペディルムは、根が少なくて、弱くて、特に乾燥に弱いことが知られています。しかし地生で根が見えないため、元気かどうかが分かりません。これを透明鉢に植えると、根は大抵の場合鉢の内側に沿って伸びるので、根が元気かどうかがいつでも良く分かります。元気な場合には、根の根毛が沢山あって、先が白くなって伸び続けています。さらに、元気な場合は本数が多く、太さも太くなっていることが分かります。コチョウランやカトレヤも、地上で新根が出たり伸びたりが見えない場合でも、パフィオペディルムの場合と同様に、根が伸びて先が緑になっているか、古い根が腐りかけていないかなどを知ることができます。
元気が良ければ水やりを初めとする世話をそのまま続ければよく、元気がなくなり始めたら、注意するようにし、元気がなくなってしまったら世話の仕方を変えたり、植え換えるなどの処置をすれば、見ないでずっと同じ世話をしているより、ずっと根腐れを減らすことができます。根の生長は、茎や葉の生長以上に新鮮で面白いです。
また、根を見て育てることは、どんな種類にも共通な大事なことで、種類ごとにあれこれ想像して悩む必要もなく、上達の王道です。

パフィオペディルムを透明ポットに植えて、底近くに穴を開けた。伸びている根は明るい茶色でその先端は白く、根毛が沢山あり、底に沿って進んでいる。
6.各論
以上の共通の世話を前提として、さらに、各種類の特徴に合わせてやることによって、これらの種類が無事育てられるようになると思います。各種類、ばらばらに栽培法が説かれることが多いですが、共通点と同時に違いを正しく捕えることにより、コツが掴みやすくなるのではないでしょうか。
それぞれの代表種を、今月のラン(洋ラン図鑑)に示してあります。
(1)ミディコチョウラン(ドリティノプシス)
根腐れ・日焼けしやすく・病気に弱く・寒さにも弱いです。売られている苗はすでに根腐れしていることも多く、単茎性のため親株が痛むと再起が難しいので、長年活かし続けるのが難しくなっています。一方、ヨーロッパなどでは、1鉢か2鉢が窓辺で咲いているのを良く見かけます。これは販売苗が短期間に大きくしたものであることも原因と思います。販売苗を、じっくりと堅作りに変えていけば、このようになるでしょう。まずは共通に述べた、衣替えです。
1年中開花苗を入手することができますが、入手し栽培を始めるのは、春が無難でしょう。
一方で、コチョウランは、高温にさえできれば、他の種類より花が咲きやすいという、特長もあります。複茎性の種類は、春に新芽が出て秋までに大きくなり茎(バルブ)が太って株が充実すると花が咲くというのが基本的なパターンですが、単茎性のコチョウランは、そのような周期はないため、植え替えによる春のスタートの遅れによって花が咲かないということはありません。
他の種類とはやや異なりますが、秋までは屋外で育てて、寒くなり始めたら家に取り込み、温度を高くしてやると、うまく花が咲いてくれるかも知れません。
(2)ミニカトレヤ
カトレヤも、コチョウランほどではありませんが、根腐れや日焼けや病気になりやすいです。また、寒さを嫌います。さらに、複茎性のため、障害があっても致命傷になりにくい利点の反面、新しい株が育たないと翌年の開花が望めないという違いがあります。
カトレヤ栽培で大事なのは、新芽が、春から秋までに親株を超える位に大きくなれば花が望めるが、多くの場合、新しい芽ほど小さくなってしまうことです。生産者の温室で、高温と長い生長期間で大きくなってきた親株に比べて、子株がある程度小さくなるのは当然ですが、花を咲かせるのに必要な大きさを下回ってしまうことが多いです。ですから、花を咲かせるためには、他の複茎性の種類と同様に、新芽を大きくすることが必要です。
カトレヤに限らず複茎性種全体に当てはまることですが、新芽が大きくならない理由は少なくとも4つあると思われます。
@春の生育スタートが遅くて、十分な生育期間が取れない これも、温室でない場合にはある程度不利なのは当然ですが、花が咲くのに必要な大きさまでは生育させなくてはなりません。春の昼の温度をなるべく高めること、花が咲いている場合には、ある程度楽しんだら切り取って苗の負担を減らすと共に、水やりなどの世話も、観賞モードから生育モードに切り替えることです。この点で、春から生長して開花までに時間のある秋咲きが最も育てやすいと言われていますから、秋咲きから始めるのが良いでしょう。
A肥料が不足する 苗や根が元気なことが前提ですが、窒素肥料が不足すると、生育が良くなくて、年々葉が細くなるなどとされています。肥料のやりすぎは有害ですが、肥料の吸収の悪いバーク植えの場合には、肥料切れを起こさないように、液体肥料などを継続的に施します。
B植え替えによる生育不良 洋ランの植え替えの必要な理由は、古くなった植え込み材料の更新と、複茎性の種類では、新芽が年々横に伸びて鉢の縁につかえてしまうことです。一方、植え替えでは一般に根から全ての植え込み材料を除き、根を整理するので、植えた後に生育を再開するまでに時間がかかり、しかも中々元のレベルに戻りません。高温ほど回復や、新しい根の発根も早いですが、一般家庭の栽培では生育開始が遅れます。さらに、温室では、温度が高いため春の芽や根が出始めるのも早く植え替えを早くできますが、普通の家庭では、植え替えを早めることもできません。
そこで、一方で毎年とか1-2年に1回とか言われている植え替えを、できれば少なくすると共に、植え替えの仕方を根痛みが減るように工夫したり、植え替えを支障なない範囲で早めることが望ましいと言えます。
株分けは植え替え以上に苗を疲れさせるので、花を見たい鉢は、みだりに繁殖せず、なるべく植え替えや鉢増しにとどめるようにします。
C親株の勢い これは鶏と卵の関係になりますが、親株がだんだん小さくなったり、元気がなくなると、その栄養を貰って育つ子株は、悪循環でさらに小さくなってしまいます。入手当初は色々な理由で小さくなるのはやむを得ませんが、2−3年がかりで勢いを回復させられれば有望です。
なお、カトレヤには色々な種類があるので、最初は寒さや病気に強く、花が咲きやすい種類を選ぶ方が賢明です。また、小型のミニカトレヤの方が、一般に丈夫なので、ミニカトレヤから入門するのが得策です。
(3)パフィオペディルム緑葉系
パフィオペディルムはここに挙げてある中では唯一の地生種です。このため、根は空中にむき出しの着生ランより乾燥に弱く、また葉1枚に1本と言われるように根は少ないです。根が乾燥に弱く過湿にも弱いとされているので、水遣りが難しく感じられます。特に根先の乾燥は大敵とされています。日陰に生えているので最も遮光率は高く、しかし余りに弱光では株の充実が望めません。また、カビによる腐敗も起きやすいです。
明るい日陰で風通しの良い所に置くのが正解のようです。根の観察が最も有効な種類かも知れません。
(4)西洋フウラン
根を覆うのが禁物とされ、他と比べて特異な存在です。また、花が不定期咲きで、花が咲くメカニズムも分かっていないそうです。毎日朝夕霧吹きで根に水をかけることなどできません。根の乾きを抑える方法として、空の容器に、底にわずかにミズゴケを敷き、その上に根を置く方法が示されています。根には耐乾性があり、湿った物に接していれば乾きにくいそうです。
同時に寒さにも弱いのがバンダの特徴です。低温期は、熱帯魚の水槽に、根を底に丸めて置き、初めは日焼けしない程度の日向に、次いで温かい室内に移すようにしました。
なお、我が国に自生する仲間であるフウランとの交配種は、小型で、寒さに強く、花が咲きやすくて、単茎種でありながら脇芽を良く出すという特徴があります。元々風ランはミズゴケに植えられており、アスコフィネティアもミズゴケ植えで大丈夫です。夏に咲くことからも高温で咲くバンダに似ていることから、アスコフィネティアから手がけると、バンダの栽培の上達が早いかも知れません。根が元気でないと順調な生育や開花は望めないので、根先をよく観察して良い条件を探すのが良いでしょう。春咲きなどには、他の季節に比べて元気になようです。これを継続させるのがカギかも知れません。
(5)セロジネ低温種
以上の種類よりは馴染みが少なく、普通の園芸店では殆ど見ることがありませんが、本にはこれらに次いで多く載せられている種類です。
洋ラン中学命名2008.11.9-
2009.1.30黒帯から改題